1.太陽礼拝とは?
ヨガ愛好者の方々、またヨガインストラクターを志す方々は、きっと「太陽礼拝」をご存知の方が多いことと思います。
年末年始には仏教で言われる私たちが持つ煩悩の数の分、太陽礼拝をおこなうことで心身の浄化をし、新しいエネルギーを取り入れようといった、108回の太陽礼拝をおこなうというイベントレッスンなども多く見られます。
アーサナ(ポーズ)を呼吸とともに流れるようにおこなうこの太陽礼拝は、サンスクリット語で「スーリア・ナマスカール」と言います。
「スーリア」は私たち生命の源であり、多くの恵みをもたらしてくれる太陽神を、「ナマスカール」は敬礼を意味しており、文字通り太陽に挨拶し、礼拝をするような動作を繰り返す、自然神・太陽への敬意や感謝を表すハタヨガのアーサナ練習では基本とも言えるものです。
太陽礼拝は朝、東の方角に向かい、日の出前におこなうことが従来の練習方法でしたが、現在では日中、夜と時間帯を問わず、多くの方々に練習されています。
1.1 太陽礼拝の目的
様々な流派によって太陽礼拝にも多少の違いがありますが、現在のような形となったのは「現代ヨガの父」と呼ばれるT.クリシュナマチャリア師によって、成長期の若者に体力増進などを目的としてまとめられたと言われています。
吸う息で1動作、吐く息で1動作と呼吸に合わせ、1つのアーサナが次のアーサナへと続いていくように段階を踏んで流れるように動いていく、この太陽礼拝に代表されるような一連の動き「ヴィンヤサ」は、集中力が高まるため「動く瞑想」とも言われます。
瞑想をしようと座ろうとしても、なかなか心が鎮まらないというご経験がおありの方が多いかと思います。
太陽礼拝などの流れるような呼吸と、一体となる一連の動きをおこなうことで自然と集中していくため、瞑想状態に至りやすく、身体の健やかさはもちろんのこと、心の安定や強さを育むことができるでしょう。
1.2 太陽礼拝の効果
それでは、多くのヨガ愛好者に実践されている太陽礼拝には、どのような効果が期待できるのかを具体的にご紹介します。
2.体調の改善や不調の予防になる
3.身体を温めるウォーミングアップ効果、血行促進効果
4.柔軟性の向上
5.筋力の向上
6.有酸素運動となり、代謝のアップや体質改善、脂肪燃焼効果が高まる
7.呼吸と身体に意識を向けるため、集中力が身に付く
8.倦怠感を和らげ、活力アップにつながる
9.精神的な落ち着きや安定を培うことができる
10.ご自分を俯瞰した視点が養え、瞑想の効果が高まる、等々
太陽礼拝にはこうした多くの効果が上げられます。
身体的な練習によって体質改善などと共に、さらに継続的な練習を積み重ねることによって集中の極まった状態になり、瞑想の効果である精神的な安定にも次第につながっていきます。
また、太陽礼拝は呼吸に動作を合わせることが重要ですが、呼吸が動きを先導していくようにおこなうことで、次第に意識的で丁寧な、ゆったりとした動きに変化していくことでしょう。
この呼吸と動きが一体となることで「動く瞑想」を体感することができます。
注意深く呼吸と身体を観察することによって、自分自身を俯瞰した視点を養うことができ、ご自分の感情や自動思考に振り回されることなく、客観的な落ち着いた姿勢で物事を判断することにつながり、普段の生活のなかで役立つ場面が出てくることでしょう。
さらに太陽礼拝を習慣化することによって、その日の体調や心の様子に気づきやすくなるなど、セルフメンテナンスにも役立ちます。
2.太陽礼拝をおこなう際の注意点
太陽礼拝は、複数のアーサナを流れるようにおこなうため、勢いをつけておこなったり、間違った身体の使い方をし続けることで慢性的な痛みなどを抱えたり、怪我につながりやすくなるため、ヨガが初めての方や初心者の方、体力に自信がない方などは、最初はアレンジをして難易度を下げておこなうことをおすすめします。
太陽礼拝はヨガクラスのなかで頻繁に繰り返されることが多いため、反復運動過多損傷が起きやすく、特に肩や手首、腰、首、ハムストリングスなどに負荷が大きくかかりがちになるため、注意深く練習する必要があります。
太陽礼拝には決められた回数がないため、ご自分のペース、今日の身体の様子に意識を向け、無理せずに運動量の調整をすることが大切です。
また、呼吸を止めたり、無理に深くしようとせずに、ご自分が心地良いペースの呼吸に合わせるように太陽礼拝をおこなってみましょう。
3.太陽礼拝の行い方とポイント
ヨガの流派・スタイルによって、アーサナの名称や数、方法など多少の違いがある太陽礼拝ですが、ここではベーシックとも言える太陽礼拝をご紹介します。
太陽礼拝は前屈と後屈の動作を繰り返すシンプルなものですので、覚えてしまえば自宅などでの自己練習にも適しています。
1.タダ―サナ(山のポーズ)
両足の人差し指とかかとの中心を平行に保ちながら立ちます。(足幅は骨盤幅程度、もしくは揃えます)足の四隅で均等に床を押し、背筋を心地良く伸ばして、胸の前で合掌しましょう。ゆったりと呼吸をします。
2.ウッティタ・ハスターサナ(手を伸ばすポーズ)
息を吸いながら合掌の手を上に伸ばし、無理がなければ手の親指の辺りを見上げます。
3.ウッタナーサナ(立位の前屈)
息を吐きながら股関節から折るように背筋を伸ばしながら前屈をし、手のひら、もしくは手の指の腹を足の横の床に付けます。
4.アルダ・ウッタナーサナ(立位の半分の前屈)
息を吸いながら、背筋を伸ばし身体を少し持ち上げ、胸を広げます。この時、手のひら、もしくは手の指の腹を床に付けます。
5.プランク(板のポーズ)
息を吐きながら、手のひらを着いたまま一歩ずつ(もしくはジャンプバックで)大きく両足を後ろへ下げ、頭からかかとまで一枚の板のように一直線を保ちます。
6.チャトランガ・ダンダーサナ(四肢の杖のポーズ)
プランクの姿勢を保ちながら、肘と肩が平行になるまで肘を曲げ、身体と床が平行になるようにします。
7.ウルドヴァ・ムカ・シュヴァナーサナ(上向きの犬のポーズ)
息を吸いながら、手のひらで床を押し下げ、上体をスライドさせながら肘を伸ばし、足 の甲を床に着けて押し下げるようにして胸を開きます。
8.アド・ムカ・シュヴァナーサナ(下向きの犬のポーズ)
息を吐きながら、つま先を立て手のひらで床を押し下げ、お尻を突き上げるようにし、足は腰幅程度に開きます。背筋を伸ばし、かかとを床に押し下げます。
9.アルダ・ウッタナーサナ(立位の半分の前屈)
息を吸いながら、一歩ずつ(もしくはジャンプで)両手の間に両足を戻し、4番目におこなったアルダ・ウッタナーサナ(立位の半分の前屈)に戻ります。
10.ウッタナーサナ(立位の前屈)
息を吐きながら、3番目におこなったウッタナーサナ(立位の前屈)に戻ります。
11.ウッティタ・ハスターサナ(手を伸ばすポーズ)
息を吸いながら、2番目におこなったウッティタ・ハスターサナ(手を伸ばすポーズ)に戻り、頭上で合掌をして腕を伸ばします。
12.タダ―サナ(山のポーズ)
一番最初の姿勢に戻り、今のご自分の呼吸や身体の様子、心の変化を内観しましょう。
4.初心者さんのための太陽礼拝 ~アレンジ編~
初めてヨガに取り組んでみようと思われる方や、身体を動かすことに慣れていらっしゃらない方、また痛みや怪我などをお持ちの方やご高齢者には、通常の太陽礼拝は強度や難易度が高く感じる可能性があります。
そこで今回は、アレンジをした太陽礼拝もご紹介します。
ヨガインストラクターを目指していらっしゃる方にとっては、ヨガクラスには様々な方がいらっしゃいますので、こうしたアレンジもご参考になればと思います。
1.タダ―サナ(山のポーズ)
両足の人差し指とかかとの中心を平行に保ちながら立ちます。足幅は腰幅程度にします。足の四隅で均等に床を押し、背筋を心地良く伸ばして、胸の前で合掌しましょう。ゆったりと呼吸をします。
2.ウッティタ・ハスターサナ(手を伸ばすポーズ)
息を吸いながら、腕を横から回し上げ、無理がなければ頭上で合掌をします。(きつい場合は肩幅程度の幅まで、もしくはご自分の腕が心地良く上がる程度まで腕を上げましょう。)
3.ウッタナーサナ(立位の前屈)
息を吐きながら、腕を横から開き、股関節から折るように前屈をし、手のひら、もしくは手の指の腹を床に付けます。(膝が曲がっても構いません。きつい場合は脛のあたりに手を置きましょう。)
4.アルダ・ウッタナーサナ(立位の半分の前屈)
息を吸いながら、背筋を伸ばし身体を少し持ち上げ、胸を広げます。この時、手のひら、もしくは手の指の腹を床に付けますが、きつい場合は脛に手を置きましょう。(膝が曲がっても構いませんので、しっかりと吸う息が入るように胸を広げ、背筋を伸ばすことがポイントです。)
5.アド・ムカ・シュヴァナーサナ(下向きの犬のポーズ)
息を吐きながら、手のひらを着いたまま一歩ずつ大きく両足を後ろへ下げ、手のひらで床を押し下げ、お尻を突き上げるようにし、両足は腰幅程度、きつい場合は肩幅程度に開きます。
背骨を伸ばすようにしっかりと手で床を押し下げ、かかとを床に押し下げます。(背中が丸くなってしまう場合は、膝を曲げましょう。かかとが浮いていてもかまいません。)ここで数呼吸を繰り返しましょう。
きつい場合はチャイルドポーズや四つん這いで休んでください。
6.アルダ・ウッタナーサナ(立位の半分の前屈)
息を吸いながら、一歩ずつ手の間に足を戻し、4番目におこなったアルダ・ウッタナーサナ(立位の半分の前屈)に戻ります。
7.ウッタナーサナ(立位の前屈)
息を吐きながら、3番目におこなったウッタナーサナ(立位の前屈)に戻ります。
8.ウッティタ・ハスターサナ(手を伸ばすポーズ)
息を吸いながら、2番目におこなったウッティタ・ハスターサナ(手を伸ばすポーズ)に戻り上体を起こします。頭上で合掌をし、腕を上に伸ばします。(きつい場合は両腕を肩幅程度の幅まで、もしくはご自分の腕が心地良く上がる程度まで腕を上げましょう。)
9.タダ―サナ(山のポーズ)
一番最初の姿勢に戻り、呼吸や身体の様子、心の変化を観察してみましょう。
5.太陽礼拝を毎日の習慣にしよう!~自己練習の大切さ~
毎日、私たちの呼吸、身体、心の様子は違います。今のご自分の状態を表すとどんな天気模様でしょうか?気分が良い晴れのような日もあれば、身体のどこかに重だるさを感じる曇りのような日もあります。
時には起き上がることもつらい嵐のような日もあることでしょう。
しかし、ヨガはどんな時でも、お一人お一人の内に太陽のような変わることのない美しく輝く光があるということを教えてくれています。
私たちは現在、地球環境の変化や新型コロナウィルスの影響による生活様式などの変化にさらされ、多くのストレスや心身の疲労を抱えがちです。
不安や心配、怒りや悲しみ、様々な葛藤にさいなまれる時も、何度でもヨガマットの上に立ち、ご自分の呼吸と身体に立ち返る時間を設けることによって、心身の安定を培うことができます。
毎日の練習に太陽礼拝を取り入れることによって、太陽のようなパワフルなエネルギーとつながり、心身の安定と、さらに力強く進んでいく力を得ることができます。
ぜひ毎日の太陽礼拝を習慣化することで、心と身体の健康を培うことにお役立てくださいね!あなたの毎日に太陽のようなあたたかさや、明るい光が満ちますように…。