1.月礼拝とは?
ヨガを練習されている方々の中には、太陽礼拝を練習に取り入れている方々が多くいらっしゃることと思います。
本来、ヨガは自然や大いなる存在に敬意を表し、そこに意識を向けつながることを大切にしてきました。太陽礼拝も同様に生命の源である太陽に敬意を表し、礼拝するように日の出前に東へ向かいながらおこなうものでした。
今回は、その太陽と対になる月への敬意を表す一連の動きである「月礼拝」をご紹介します。
1.1 女性のためにつくられた!?月礼拝
ヨガは本来、男性たちにのみ実践されてきましたが、現代ヨガの父と言われるT.クリシュナマチャリア師の功績によって、現在では多くの女性たちに実践されるようになりました。
太陽礼拝は、比較的若い男性に向けてまとめられた練習法であり、太陽のようにパワフルで活動的な一連の動きです。実際に太陽礼拝をおこなっている方々は、太陽礼拝をしていると身体が温まるのと同時に、心にも活力が湧いてくる感覚をお感じになられる方が多いのではないでしょうか?
今回は、そのパワフルな男性的なものに対して、より女性的とも言える、女性たちによってつくられた月礼拝について深掘りしていきます!
私たちの心と身体は、知らず知らずのうちに地球の様々な変化に影響を受けており、当然、月の満ち欠けの影響も受けています。
満月の日には出産が多くなる、事故が起きやすいといった話をお聞きになったことがある方も多くいらっしゃると思います。
また、新月の日には浄化作用が高まると言われています。特に女性は月の周期と生理の周期がほぼ同様であるため、月の影響を感じやすい方が多いようです。
ハタヨガの活動的なアーサナ(ポーズ)だけでは、こうした月経などを含む女性の繊細な心と身体に対してのケアが行き届きにくく、こうしたことからクリパルヨガの女性ヨガ講師たちによって、太陽礼拝と対となるような月礼拝が現代に生み出されました。
1.2 太陽礼拝と月礼拝の違い
太陽礼拝をサンスクリット語で「スーリア・ナマスカーラ」、月礼拝を「チャンドラ・ナマスカーラ」と言います。太陽は「スーリア」、月は「チャンドラ」を意味し、「ナマスカーラ」は敬礼するという意味になります。
太陽は男性的なエネルギー、社会的、陽を、月は女性的なエネルギー、内観、陰を表します。太陽礼拝が前屈や後屈をおこない、太陽に敬意を表し挨拶をするようにダイナミックに動くのに対し、月礼拝は、横へと動き、まるで月の満ち欠けの変化を表すかのように一連のアーサナをおこないます。
こうした月礼拝の動きによって、左右への意識の広がりが育まれ、他者や様々な変化を受け入れる力を育み、心身双方の土台の安定感を築いていくことに役立ちます。
それぞれの特徴は、太陽礼拝はエネルギーを高め、心身に活力を与えるのに対し、月礼拝では高まったエネルギーを鎮静化するなどの太陽礼拝とは反対の作用・リラックス効果や、瞑想的な静けさを体感することができ、まさに両極である陰と陽を象徴するエネルギーを感じ分けることができるでしょう。
2.月礼拝に期待できる効果とは?
月礼拝は股関節の可動域を広げる動きや骨盤を中心に動かすことが多く、骨盤周りへの働きかけが多くあるため、女性にとってうれしい効果が盛りだくさんです!
満月や新月の日は、エネルギーのバランスが変化し、潮の干満によって身体の水分量が変化するなど、月が私たちの心と身体に与える影響が大きいためヨガの練習を休む流派もありますが、心身に与える影響が大きいからこそ、注意深くご自分の心と身体を見守りながら、リラックスや平静さを取り戻し、優しさや穏やかさを育むことのできる月礼拝をおこなうことがおすすめです。
もちろん、男性にとっても効果的ですので、ぜひ実践していただければと思います!
2.骨盤周りの血行促進、むくみ、冷えの改善
3.歪みの改善
4.生理痛の緩和
5.股関節周辺の柔軟性の向上
6.疲労感の軽減、ストレス解消効果
7.マインドを鎮めるなどの瞑想の効果、等々
3.月礼拝のおこない方とポイント
それでは、早速月礼拝をおこなってみましょう。月礼拝は太陽礼拝の前屈と後屈を繰り返す動きとは違い、横へと動いていくため、マットを横向きに使っていきましょう。
ポイント:個人が持つ骨格の個性や柔軟性の違いにより、人によっては比較的ハードになる場合があります。ご自分の無理のない範囲でおこない、必要な場合は、ヨガ用のブロックやブランケットなどを使用しておこなってください。
また、アーサナの名称は流派・ヨガスタイルによって異なります。ここではクリパルヨガのアーサナ名をできるだけ使用しています。クリパルヨガは、アーサナの出来不出来ではなく、アーサナをおこなっている際のご自分に起こっている感覚、感情などに意識を向け、そこに気づくことを大切にしたヨガです。
この月礼拝も、「感じること」を大切におこなってみてくださいね。
1.タダ―サナ(山のポーズ)
マットを横向きに敷き、左隅に立ちましょう。足を揃え、胸の前で合掌します。目をやさしく閉じ、ゆったりとした呼吸を数呼吸し、心を落ち着けましょう。
ポイント:目を閉じることで、心を内側に向けていきましょう。内側のエネルギーを感じ、もしくは月を思い描くようにして心を鎮めます。目を閉じることでふらふらしたり、不安があれば1.5mほど先の床をながめるようにしてください。
2.アルダ・チャンドラ―サナ(半月のポーズ)
吸いながら、腕を横から円(満月・新月)を描くように回し上げ、人差し指だけを出し他の指は絡ませ、ムドラをつくります。吐きながら骨盤を左へ押し出し、両人差し指を右斜め上に突き上げるようにして、身体全体で三日月を描くようにし、左体側を伸ばします。
吸いながら身体を真っ直ぐに戻し、吐きながら今度は骨盤を右に押し出し、両人差し指を左斜め上に突き上げるようにして、右体側を伸ばします。
ポイント:身体を三日月のように横へと伸ばしますが、肩はできるだけ引き下げリラックスしておこないましょう。上の肩が前側に倒れないように、軽く後ろに引いて体側を伸ばします。
3.女神のポーズ
吸いながら上体を戻し、両腕を床と平行に開き、右足を横へ大きく踏み出します。この時、つま先を斜め外に軽く向けましょう。吐き出しながら足首の上に膝がくるように膝を曲げ、手のひらを内側に向けながら、肘は直角になるように曲げます。
ポイント:クリパルヨガの独特な女性を象徴するアーサナです。意思を持った強さや出産などを想起させるこのアーサナ独特のエネルギーを感じてみましょう。膝の痛みの予防のため、膝の向きにつま先を合わせるようにし、膝を曲げるときは、つま先より前に膝が出ないように注意してください。
4.ファイブ・ポインツ・スター(星のポーズ)
吸いながら膝、肘を伸ばし、両腕は床と平行にし、大の字になるように腕を広げます。
ポイント:胸を広げ、ご自分の身体で星の形を描きましょう。このアーサナもクリパルヨガ独特のものです。包容力や広がり、バランスや中心、静けさなど、ご自分がこのアーサナから感じることに意識を向けましょう。
5.トリコナーサナ(三角のポーズ)
手のひらを下に向け、左のつま先を内側に入れ、右のつま先は横へ向けるようにし、右へと引っ張られるかのように右手を横へ押し出し、吐きながら右に上体を倒し、左手を天井に突き上げます。左手先を見上げましょう。
ポイント:上体を無理に倒そうとするより、左手で空を押し上げるようにし、上へと向かうエネルギーや、胸の広がり、そこで感じる生命力など、ご自分の感覚を感じてみましょう。
6.パルシュ・ヴォッタナーサナ(わき腹を強く伸ばすポーズ)
吸いながら、押し上げた左手で円を描くように左腕を耳へ引き付け、吐きながら左側の骨盤を倒しながら、お腹を床に向け、右足の横に両手を付き、背骨を伸ばして前屈します。
ポイント:右太ももの裏(ハムストリングス)が強く伸びるため、きつい場合は両手の下にブロックを置いて軽減しましょう。もしくは軽く右膝を曲げましょう。右脚と上体を近づけるように前屈することで、大地に委ねること、月へ頭を垂れるような素直さや敬虔な気持ちなどを思い出し、沸き起こってくる感覚、感情に気づいてみてください。
7.ローランジ
吸いながら右膝を曲げ、左足の膝と甲を床に付け、視点を斜め上へと向けましょう。
ポイント:月を見上げるように、月とのつながりを感じてみましょう。
8.サイドランジ
両手を正面の床に付きながら、右足先を斜め前に向け、左かかとを横に押し出します。坐骨は下へ、頭頂部は上に押し上げましょう。
ポイント:右のかかとが浮いても構いません。左の太ももの内側や裏(ハムストリングス)を心地良く伸ばし、両内ももを開きます。
9.マラーサナ(花輪のポーズ)
左足を引き寄せ、かかとは腰幅程度に開き、その間に骨盤を下ろします。手のひらを合わせ、肘は外へ押し出し、膝は内側へと引き寄せ、背骨を伸ばしましょう。
ポイント:かかとが浮いても構いません。安定感がなければ、かかとの下に硬めの素材のブランケットを敷きましょう。どっしりと、大地に根付くような、安定感のある土台(骨盤)、そこから伸びる背骨、上下・陰陽のエネルギーを感じてみましょう。
10.サイドランジ
両手を正面の床に付き、右足を横へ押し出し、8番目におこなったように、今度は右脚の内側や裏を心地良く伸ばします。
11.ローランジ
身体を左へ向け、左足の横に両手を付き、右足の膝と甲を床に下ろします。7番目におこなった左脚が前のローランジをおこない、吸いながら視点を斜め上へと向けましょう。
12.パルシュ・ヴォッタナーサナ(わき腹を強く伸ばすポーズ)
吐きながら右足裏を床に着き、つま先を斜め前に向けます。6番目におこなった左脚が前のパルシュ・ヴォッタナーサナをおこないます。
13.トリコナーサナ(三角のポーズ)
吸いながら、右手先で円を描くようにして5番目におこなったトリコナーサナをおこないます。
14.ファイブ・ポインツ・スター(星のポーズ)
次の吸う息で上体を起こし、両腕は床と平行にし、大の字になるように腕を広げ、4番目におこなったファイブ・ポインツ・スターをおこないます。
15.女神のポーズ
吐きながら3番目におこなった女神のポーズをおこないましょう。
16.アルダ・チャンドラーサナ(半月のポーズ)
吸いながら膝を伸ばし、左足のつま先を正面に向け、右足を左足に揃えます。次の吸う息で、腕を横から円を描くように回し上げ、人差し指だけを出し他の指は絡ませ、ムドラをつくります。
吐きながら骨盤を右へ押し出し、両人差し指を左斜め上に突き上げるようにして、2番目におこなったアルダ・チャンドラ―サナをおこないます。吸いながら身体を真っ直ぐに戻し、反対側も同様に、吐きながら骨盤を左に押し出し、両人差し指を右斜め上に突き上げるようにして体側を伸ばします。
17.タダーサナ(山のポーズ)
吸いながら上体を戻し、吐いて両手で円(月)を描くように横から腕を回し下げ、胸の前で合掌します。目をやさしく閉じ、ゆったりとした呼吸を数呼吸しながら、月礼拝の後のご自分の心と身体の様子に意識を向けましょう。
4.満月・新月の日には月礼拝をおこなって心身の調和を取り戻そう!
ヨガスタジオなどでは、満月や新月の日などにおこなうこの月礼拝をイベントレッスンとして取り入れているところもあり、参加者にはやはり月に共鳴しやすい女性が多くいらっしゃいます。ヨガインストラクターを志す方々も、ご自分のクラスにぜひ取り入れてみてください。
月は光の当たり具合が変わることで形が変わって見えますが、月そのものは変わってはいません。
私たちは日々の様々なことに翻弄され、心が揺らいだり身体に不調が起きたりと、その変化に戸惑うことが多いかもしれませんが、月と同じように、私たちそれぞれが持つ「自己の本質」は変わることがないとヨガは教えてくれています。
忘れがちではありますが、私たち人間も自然の一部であり、生かされている存在です。
せわしない日々のなかに、せめて月に2度やってくる満月と新月の日に(それ以外の日ももちろん!)月へ想いを馳せ、謙虚さや敬虔な気持ち、穏やかさや調和を取り戻し、心身の安定や変化を受け入れていく受容力を育んでいただければと思います。