ヨガの哲学 八支則とは?
ヨガの学びを深めていくと「八支則(はっしそく)」という言葉をよく耳にすることはありませんか?
これは聖者パタンジャリによってまとめられた『ヨーガ・スートラ』に記されている、ヨガの最終的な目標である「悟り」へと向かうための8つのステップのことを指しています。
けれどこの教えは、なにも「特別な誰か」だけのためにあるものではありません。
むしろ「自分らしく、しなやかに生きていくための知恵」として、今を生きるわたしたち一人ひとりの暮らしにそっと寄り添ってくれるやさしい学びなのです。
>>ヨガ八支則(はっしそく)とは?なぜヤマニヤマの教えは大事なのか
八支則の土台 ヤマ・ニヤマとは?
八支則の最初のふたつ「ヤマ」と「ニヤマ」は、ポーズや瞑想といった実践を“深める前に”大切にするものとされています。
• ヤマ:してはいけないこと(自分や他者を傷つける行為)
• ニヤマ:すすんで実践したいこと(心を調えるための習慣)
あわせて10個あるヤマ・ニヤマの教えは、私たちが“本来の自分”を大切にしながら生きていくための土台でもあり、ポーズの上達や瞑想の深まりも、この土台があってこそ育まれていきます。
私自身、ヤマ・ニヤマの教えに出会ったとき「ヨガって、ただポーズをとることではなく、“生き方そのもの”を整えてくれるものなんだ」と深く腑に落ちたことを、今でも覚えています。
今回は、ニヤマの3つ目の教えである「タパス」について、私自身の経験をまじえながら、お伝えしていきます。
タパス(苦行・自己鍛錬)とは?
「タパス」とは、サンスクリット語で“熱“や”内なる情熱“という意味を持つ言葉ですが、私は、この教えをよりやわらかく、あたたかく捉えてみました。
私にとってのタパスとは、「どんなときも、“そのままの自分”を信じられるしなやかな強さを育む」ということ。
タパスとは、誰かの期待に応えることでも、完璧になることでもなく、どんなときも自分の中に灯っている小さな炎を信じて見つめ続けること。
そして、その炎をそっと守り育てていこうとする在り方そのものなのではないでしょうか?
ヨーガ・スートラの第2章43節には、こんな言葉があります。
「苦行(タパス)によって、身体と感覚の不浄が消え、超自然力が得られる。」
つまりタパスとは、「そのままの自分を信じる」ために、必要のないものを手放していく練習なのかもしれません。
その結果として、私たちは感性や直感、本質を見抜く力といった“本来の自分が持っていた力(=超自然力)”を取り戻していけるのかなと感じました。
ではここからは、私が日常で感じた“タパスあるある”を3つ、ご紹介していきます。
前回の記事では、ニヤマの教えである「サントーシャ」を私なりの感性でお伝えしました。
>>0から分かるヨガ哲学【八支則⑦】サントーシャ “今、ここ”にある自由と豊かさを再発見する
日常でのタパスあるある
「変わりたい」と願いながらも、立ち止まってしまうとき
「もっと自分を好きになりたい」
「でも、このままでいるのはなんか違う気がする…」
そんなふうに願いながらも、変化の一歩を踏み出すのが怖くて、立ち尽くしてしまう経験をしたことって、きっと誰もがあるのではないかなと思います。
でも、そんなときこそ思い出したいのが、“立ち止まる勇気“もまた、タパスのひとつだということ。
たとえば
• スマホを閉じて、静けさと向き合う時間をつくってみる
• 誰かに合わせるのではなく、自分の心地よさを優先してみる
• 毎日続けていたことを、今日はあえて「やらない」と決めてみる
タパスは、常に頑張り続けることではありません。
ほんとうに大切なものを見極めるための“あたたかな決意と勇気”こそ、自分の内なる火を育ててくれるのではないでしょうか?
つい誰かのペースに流されてしまいそうになるとき
SNSや周りの人の声に触れるたび、「もっと頑張らなきゃ」「まだまだ頑張りが足りない」と自分を追い立ててしまうことはありませんか?
私自身もかつて、「みんなと同じ速さで生きなければ」と、自分の心地よいリズムを見失いかけたことがありました。
でも、ヨガ哲学の学びを深めていく中で気づいたのです。
「“誰かのように”ではなく、“自分のままで”いようとする強さこそ、タパスなのかも」と。
たとえば
• 自分が「心地よい」と思える習慣をひとつだけ丁寧に続けてみる
• すべてを完璧にしようとせず、「今日はこれだけやる」と決めてみる
• 周りと比べるのではなく、「今の自分にできるベスト」に寄り添ってみる
他人が持つ“しなやかな強さ”に目を奪われるのではなく、自分らしさを丁寧に感じてあげることも、タパスのはじまりなのかもしれません。
「もうダメかもしれない」と、自分をあきらめそうになるとき
生きていると、もうどうしようもなく心が折れてしまいそうな日って、ありませんか?
何もかもがうまくいかないと感じる日、自分の想いなんて誰にも届かないんじゃないかと感じること、積み上げてきたものをすべて手放してリセットしてしまいたくなるような感覚…。
「どうせ私にはできない」「やっぱり私なんかには無理なのかも…」
そんなふうに、自分を信じられなくなる瞬間って、誰の人生にもあると思っていて。
でも、タパスの教えは「それでも自分であることをあきらめずに、何度でも自分を信じること」でもあると、私たちに伝えてくれている気がするのです。
たとえば
• 前に進むことや踏み出すのが怖いときこそ、ほんの小さな一歩を探して選んでみる
• 小さな成功を見逃さず、「私、よくやってるよ!」と自分に声をかける
• 「怖い」と感じている自分も、そのまま大切に受け止めてあげる
自分を信じる力は、どこかから与えられるものではなく、日々の選択のなかで、少しずつ育まれていくものなのかもしれません。
タパスの教えを日常に活かす方法
私が日々大切にしている、タパスを育むためのちいさな実践をいくつかご紹介します。
・朝起きたとき、「今日、大切にしたいこと」をひとつだけ決める
・疲れた日には「やらないこと」をあえて選んで、自分を守ってあげる
・夜寝る前に、「今日の私も、よく頑張った」とそっと声をかける
タパスとは、「苦しみながら頑張り続けることで完璧に生きること」ではなく、「私の内側に灯る火を、自分で消さないでいよう」という自分への愛ある誓いから生まれるもの。
日々移ろう心の声を丁寧に聴きながら、その時々に応じて自分の火加減を調整し、見守ること。それこそが、わたしたちが日々できる「自分を信じるための実践」なのかもしれません。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
ヤマ・ニヤマの8つ目の教えであるタパス。
「タパス」とは、「苦しみのなかで頑張り抜くこと」ではなく、「今日も明日も“そのままの自分”を信じていくこと」という、あたたかくて力強い生き方の選択。
たとえ、うまくいかなくて涙する日があっても、立ち止まることがあっても、そのたびに「それでも自分をあきらめずに信じてみよう」とそっと誓いを立てて生きていくこと。
この「信じ、あきらめない姿勢」こそが、私たちに“しなやかな強さ”や“静かな自信”を育ててくれるのかもしれません。
このコラムを読んで、あなたの内側にそっと火が灯るような気づきが生まれていきますように。その小さな灯が、あなたという存在をやさしく照らし、やがて誰かの心にもそのあかりとぬくもりが届いていきますように。
次回のコラムは、ニヤマの4つ目の教え「スワディアーヤ(自己学習・自己探求)」についてお届けしていきます。
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