ヨガの基本の呼吸法・腹式呼吸とは?
呼吸とは、酸素を取り入れ二酸化炭素を排出するガス交換ですが、ヨガの呼吸法の捉え方はそれだけではありません。
ヨガの呼吸法をサンスクリット語で「プラーナヤーマ」と言います。
そして「プラーナ」とは気・生命エネルギーを指し、その生命エネルギーを意識的に内側に取り込み、巡りを促す方法がヨガにおける呼吸法の捉え方です。
そのためプラーナヤーマは「調気法」とも訳されます。
ヨガの練習をおこなう際、ヨガスタイル・流派によっておこなう呼吸法は様々ですが、アーサナ(ポーズ)とともに必ず呼吸がスムーズにおこなわれていることが大切です。
私たちの心と身体を動かす源である生命エネルギーは、この呼吸と一体となって動くと考えられており、呼吸が留まった状態は生命エネルギーの滞りを生んでしまいます。こうしたことからもヨガでは呼吸法が重要視されています。
そして、数あるヨガの呼吸法のなかでも基本となるのが、腹式呼吸です。
腹式呼吸は、吸うときに横隔膜が下がることでお腹が膨らみ、吐くときに横隔膜が元の位置に戻り、腹部が軽くへこんで引き込まれます。
呼吸をおこなう際に使う筋肉が少ないためリラクゼーション効果が高く、横隔膜が上下に動くことで内臓が刺激されます。
また、意識的にゆったりとした腹式呼吸をおこなうことで、副交感神経が活性化されてゆきます。
私たちが日常生活でおこなっている自然呼吸は、肺の機能を約30%しか使用していないと言われていますが、ストレスの多い現代人はより浅く乱れた呼吸をしていることが多く、浅い呼吸によって自律神経の変調や血行不良、肩こりや肌荒れ、慢性的な疲労感などの様々な症状を招いてしまいます。
腹式呼吸は胸式呼吸に比べてより呼吸量が多く、現代人にとって多くのメリットがある呼吸法であり、集中とともにリラックスを促すハタヨガクラスなどで推奨されています。
腹式呼吸をおすすめする5つの理由 -腹式呼吸の効果-
ヨガを練習されている方々のなかには、ヨガインストラクターがクラス中に「ゆったりとした深い呼吸をおこないましょう」とお声がけするのを聞いたことがある方も多いと思います。
それは、アーサナとともに意識的な深い呼吸をおこなうことで、集中を促すと同時に、身体の隅々まで酸素やプラーナを行き渡らせるためです。
ここからは、ヨガの基本の呼吸法・腹式呼吸をヨガインストラクターがおすすめする理由、腹式呼吸に期待できる効果についてご説明します。
おすすめの理由①「自律神経のバランスが整う」
自律神経は生命の維持に必要な内臓器官の働きを調整する神経ですが、私たちの意思によって動かすことができません。
自律神経を意識的に調整できる力を持っているのが唯一、呼吸だけなのです。
生活習慣の乱れやストレスが多い現代人は交感神経が優位になりやすく、胃腸の働きの低下、心拍数の増加、血行不良、慢性的な疲労感などの症状が現れやすくなります。
ゆったりとした深い腹式呼吸は、副交感神経を優位にするため、緊張が和らぎ、睡眠の質の向上、さらに心肺機能や胃腸の働きが整えられるなどの効果が期待できます。
おすすめの理由②「免疫力のアップ・血行促進効果」
ストレスや緊張などで交感神経が優位になることで、血管が収縮し血流が悪くなります。深い腹式呼吸により副交感神経が優位になることで血管が拡張し血流が改善されます。
体温が1度下がることで免疫力は4割程度低下すると言われ、免疫力が下がることで病気になりやすくなってしまいますが、深い腹式呼吸によって血行が良くなることで身体が温まりやすくなり免疫力が向上します。
また、身体の冷えにより代謝が下がることで痩せにくくなり、細胞の不活性化を招くため老化も引き起こしやすくなるため、腹式呼吸によって血行を促進することで、ダイエットやアンチエイジングにもつながり、さらに冷えの改善や肩こり・首こり解消といった効果も期待できます。
おすすめの理由③「体幹の強化・姿勢の改善」
浅い呼吸は猫背などの姿勢の悪さによって引き起こされることもありますが、腹式呼吸は吐く息とともにお腹を軽く引き込みコアの筋肉を鍛えるため、体幹力の向上により姿勢を安定する力が養われます。
そのため姿勢の改善にもつながり、さらにヨガのアーサナがおこないやすくなり安定感が増していきます。
また、横隔膜が上下に動く腹式呼吸は、内臓を直接マッサージするように動くため、内臓の働きを促進するとともに、ぽっこりお腹にお悩みの方にもおすすめです。
おすすめの理由④「幸福感のアップ・リラックス効果」
忙しいときや、不安や心配事を抱えているとき、イライラしているとき、緊張しているときなどに呼吸を観察すると、浅く乱れた呼吸になっていることに気づきます。
前述したように深い腹式呼吸には、副交感神経を優位にさせる働きがあり、この副交感神経はリラックスを促します。
腹式呼吸の練習を積み重ねることで、日常的に深い腹式呼吸が身に付き、心の穏やかさを育むことにつながり、また5分以上の腹式呼吸の実践により「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンが分泌され幸福感や、やる気の向上などにもつながります。
おすすめの理由⑤「心の安定・瞑想へとつながる」
脳は身体のなかで一番酸素を必要する臓器のため、深い腹式呼吸により脳の働きが促進されます。さらに脳には自律神経の中枢があり、自律神経は感情を左右するため深い呼吸によって感情・心の安定を培うことにつながります。
ヨガ本来の目的とも言える瞑想は呼吸を安定させることで、集中力を培い、心の揺れ動きを鎮めていきます。
深い腹式呼吸によって呼吸が安定すれば、瞑想状態に至りやすくなり、継続によって日常生活のなかでもストレスを溜め込みにくくなったり、メンタル的な不調を取り除きやすくなります。
腹式呼吸の練習の仕方
それでは、腹式呼吸を練習してみましょう。腹式呼吸の練習のポイントは、背筋の伸びた安定した姿勢でリラックスしておこなうことです。
2. お腹に手を置くか、クッションなどをお腹の上に置いて、お腹の動きがわかるようにします。
3. まずは鼻から吸って口からたっぷりと息を吐き出す深呼吸で数回呼吸をし、心身ともにリラックスしていきましょう。(心地良ければ目を閉じておこなってみましょう。身体の感覚に意識が向かいやすくなります。)
4. 手を置いている(クッションなどを置いている)お腹が吸う息で膨らんでいくように、鼻からのんびりと吸い込みます。
5. 鼻から細く長く、お腹が床の方へと沈んでいくように吐き出し、吐く息の終わりで軽くお腹を引き込み、息を吐ききります。
6. できるだけ余分な力を手放しながら、4~5を繰り返してみましょう。
深い腹式呼吸に難しさを感じたら上手におこなおうと力まずに、大好きな自然のある場所などをイメージしてご自分にとって気持ちの良い呼吸を意識してみてください。
吐く息を広い場所へ遠くに吐くようにイメージして、しっかりと吐くことで吸う息が自然と深まります。
また、吸う息を5カウント、吐く息も5カウントと数えておこなうのも集中しやすくおすすめです。少しずつ余裕が出てきたら、6カウント、7カウントと呼吸を長く意識してみてください。
現代人に必須の呼吸法・腹式呼吸を身近な人にも伝えましょう!
日頃ヨガを練習されている方々のなかにも、アーサナの出来不出来に意識が向いてしまい、呼吸がおろそかになったり、呼吸を止めてしまっている方々が多く、呼吸が浅い方が多く見られます。もう一度、ヨガの基本である腹式呼吸に立ち返り、深い呼吸を心がけてみてください。
現在は特に新型コロナウィルスの影響などにより、生活環境の変化、ストレスの増大などによって不調が起きやすくなっています。
ヨガを日頃から練習されている方々だけでなく、すべての人にとって、腹式呼吸はストレス解消や心身の不調予防・改善につながるため、身に付けておきたい大切な習慣と言えます。
ヨガに対して抵抗がおありの方や、痛みや病を抱えている方、精神的な不安定さなどをお持ちの身近な方にも、手軽にできるセルフメンテナンス法であるヨガの基本・腹式呼吸をぜひ伝えてみてください。
ゆったりとした深い呼吸を習慣化して、心穏やかで心身ともに健やかな世界を築いていきましょう!