シータリー呼吸法とは?
ヨガの基本的な呼吸法と言えば鼻呼吸が主となりますが、口から吸う珍しい呼吸法があることをご存知ですか?
舌を丸めて空気を取り込む特徴的な呼吸法である「シータリー呼吸法」は、ハタ・ヨーガの原典「ハタ・ヨーガ・プラディーピカー」によれば、腹部の病気や熱、飢えや渇きを取り除くと記されています。
「シータリー」とは、「冷たい」「涼しい」という意味であり、気温が高いインドの暑さ対策としても古来よりおこなわれていた伝統的な呼吸法です。
実際にシータリー呼吸法をおこなってみると、冷たい空気が体内に入りこみ、涼しい風を感じることができます。暑さによって高まった体温を下げ、喉の渇きを抑えて、心が鎮まり落ち着くことができるため、暑い時期や興奮した時などにもおすすめです。
鼻呼吸のメリットとシータリー呼吸法のメリット
前述のとおりヨガの呼吸法は主に鼻呼吸ですが、口呼吸では乾いた空気が気道に入り込み、空気中の有害な物質を肺に取り込む恐れがあります。
一方、鼻は繊毛のある呼吸粘膜で覆われているため、空気が鼻孔のなかで加湿され有害物質を取り込みにくくなり、空気が浄化されて肺に取り込まれます。
さらに、口呼吸の場合は脳に届く酸素量が40%程と言われるのに対し、鼻呼吸の場合は90%もの酸素を届けることができると言われているため鼻呼吸のメリットは大きく、あらゆる呼吸法のなかでも特に推奨されています。
一方、シータリー呼吸法は舌先を出してストローのように丸めた舌から息を吸い、鼻から吐く呼吸法です。
舌先を口から突き出し、取り込む空気を冷やして体内に冷たい風を流し、喉や肺のなかの血管を冷やし、体内の温かな空気を吐き出すことにより体温を下げることができます。
シータリー呼吸法は口から息を吸うため、空気が汚い場所ではおこなわないこと、冬の時期や寒い日、身体が冷えやすい方や低血圧の方、呼吸器系の病気をお持ちの方はおこなわないなどの注意が必要です。
ですが、暑い夏などには「身体を冷やす」という大きなメリットがあり、さらにイライラした時などに心を落ち着かせてリラックスさせる、心身のリフレッシュ、喉の渇きを抑える、だるさや眠気を取り除く、内臓機能の促進、活力の増進などの効果が期待できます。
シータリー呼吸法の練習方法
ヨガの基本的な呼吸法である腹式呼吸やウジャイ呼吸などは、アーサナ(ポーズ)とともに練習することができますが、ナーディ・ショーダナ(片鼻呼吸法)やカパーラバティ、そしてシータリー呼吸法などは座った姿勢で練習をします。
(腰が丸まりやすい方は座骨の下にクッションなどを敷き、骨盤が立ち背骨が無理なく伸びるようにします。)
手を膝の上に置き、目を閉じて数回深呼吸してリラックスしましょう。
② 呼吸が落ち着いてきたら、舌先を口から出して舌の側面を内側に織り込むようにしてストローのような筒状にします。
③ そのストローのような舌から息をゆったりと吸いましょう。
④ 息を吸ったら、舌を口の中に戻して口を閉じ、鼻から丁寧に吐き出しましょう。
⑤ ②~④を1セットとして、10~15回程度練習してみましょう。
シータリー呼吸法のポイント
ヨガの呼吸法すべてに言えることですが、決して無理をすることなく心地良いペースでおこなってみましょう。少しずつゆっくりとしたペースを心がけ、吐く息を長くできるように練習を積み重ねてください。
そして、舌をストローのように筒状にして息を吸い込むときには、冷たい空気が舌を通り、体内に流れ込んでいく様子を観察しながらおこなってみてください。ヨガの呼吸法は調気法と捉えられ、プラーナ(生命エネルギー)の巡りを促す方法でもあります。
心地良い新鮮な空気やプラーナを心身に巡らせていくように、そして吐くときは不純物を遠くへ吐き出していくように意識的な呼吸をしてみてください。
また、もともと舌をストローのような形にできない方もいらっしゃいますが、できなくても決してご自分を責めないでくださいね。次の章では舌の形ができない方にもおすすめの「シート・カーリー」という呼吸法をご紹介します。
4. シータリー呼吸法ができなくても大丈夫!「シート・カーリー」をご紹介!
シータリー呼吸法の舌の形ができない方は、舌先を口から出して同じようにおこなってみても構いません。そして、さらにおすすめする呼吸法がシータリー呼吸法と同じ効果が期待できる「シート・カーリー」です。
② 上下の前歯を合わせ、口を「イー」というときのように横に広げます。
③ 歯の間から息を吸い込み「シー」と音を立てましょう。
④ 口を閉じて、鼻から息を吐き出しましょう。
⑤ ②~④を1セットとして、5回から20回程繰り返し練習してみましょう。
シート・カーリーの練習のポイント
上下の歯を合わせて口角を上げるように口を横に広げるとき、舌先を前歯と歯茎の境目に置いて安定させましょう。そして歯の間からゆっくりとしたペースで息を吸い込むときには「シー」という音を出し、その音に耳を傾けるようにおこなってみましょう。
両鼻から息を吐き出す際には、温かな空気が外に吐き出されていく様子を観察してみましょう。
温暖化が進む現代の暑さ対策にも◎シータリー呼吸法を練習しましょう
今回ご紹介したシータリー呼吸法やシート・カーリーは、ヨガ発祥の地と言われるインドの夏の過酷な暑さ対策として、インドならではの気候や風土によって生まれた呼吸法であると考えられます。
これらの呼吸法は身体を冷やす効果が期待できますが、寒い時期にはおこなわない呼吸法であるため、日本では通常のヨガクラスで練習する機会が少ないかもしれません。
ですが、近年の地球温暖化による気温上昇を考えると、現代にも暑さ対策、夏バテ予防としてさらに必要なメンテナンス法になることでしょう。
また、精神的な面でも心の動揺や興奮を鎮め、静寂を作り出すことができるため、心と身体のクールダウンに役立ちます。
インドのサンスクリット語の同義語辞書「アマラコーシャ」には、ヨガについて様々な説明がありますが、その一つに「Sannahanam(守ってくれるもの)」があります。
私たちの人生は喜びとともに、悲しみ、苦しみ、怒り、怖れなど様々な葛藤を抱えることが多くあり、特に現在は地球温暖化による自然災害や、新型コロナウィルスの問題など多くの難題を目の前にしています。
そんな私たち現代人に、古くから伝えられている伝統的な教えであるヨガは、心身のバランスを整える方法や、せわしなく動き続けるマインドを鎮めて真実を観る目と強さ、平静さを養う方法を教え、今なお私たちに大きな恩恵を与えてくれています。
そして、そのなかでもプラーナヤーマ(呼吸法・調気法)は、単なる呼吸法ではなく、プラーナを巡らせ、身体だけではなく心にも健やかさを与え、清らかさと平静さを養うことができる重要なツールです。
怒りやイライラを抱えたとき、心が落ち着かないとき、暑さやストレスにめげそうになるとき、シータリー呼吸法は心と身体にさわやかな風・プラーナを流し、安らぎとともに冷静さや活力を与え、私たちをストレスから守ってくれることでしょう。