1. プラーナヤーマとは?
現在、日本で「ヨガ」と言えば、「アーサナ(ポーズ)」を一番にイメージする方が多いことと思います。そのアーサナと同じように、あるいはアーサナよりも重要とも言えるものが「プラーナヤーマ」です。
プラーナヤーマとは、サンスクリット語で「prana(プラーナ)」と「ayama(アーヤーマ)」という言葉から成り立っています。
「アーヤーマ」は「広げる」、「伸ばす」という意味、「ヤマ」は「指示する」、「管理する」といった意味になります。
そして「プラーナ」とは、目に見えない私たちの心と身体を動かす生命エネルギーを指し、宇宙のあらゆるところに存在すると言われています。
この生命エネルギーは、呼吸と一体となって動くと考えられ、呼吸を長く深くコントロールすることでエネルギーを内側に取り込み、巡りを促して生命力を育む古くから大切にされている練習法であり、「調気法」や「呼吸法」と訳されています。
ヨガを練習されている皆さんは普段のヨガプラクティスのなかで、アーサナの完成形や出来不出来だけにとらわれて練習をされていませんか?
現在のハタヨガの礎を築いたと言われる現代ヨガの父、T.クリシュナマチャリア師の教えでは、呼吸がヨガの中心であり、スムーズに呼吸があるところでアーサナを行うことが大切であると伝えられています。
スムーズな呼吸がなければ生命エネルギーの巡りは滞ってしまい、本来のヨガの目的からは離れ、単なるエクササイズと化してしまいます。
呼吸はヨガにとって要であり、呼吸を深めることで自律神経の変調を防ぐ、内臓機能の向上、脂肪燃焼効果を高める、精神の安定性を培うなどの多くの恩恵を受けることができます。
2. ウジャイ呼吸とは?
ヨガスタジオなどのクラスで、ヨガインストラクターや参加者の皆さんから「スー」「シュー」といった呼吸音を耳にしたことはありませんか?
まるでさざ波のような、もしくは洞窟のなかに風が通っていくような静かな摩擦音を出す呼吸法がウジャイ呼吸です。
日本語では「勝利の呼吸」とも訳されるウジャイ呼吸の「ujjayi(ウジャイ)」とは、サンスクリット語で「広がり」や「上昇」といった意味の「ウド」と、「成功」「征服」という意味を持つ「ジャヤ」から成り立っています。
この呼吸法が肺を拡張させ、胸を張った征服者のようなことから名付けられたと伝えられています。
このウジャイ呼吸はハタヨガの基本的な呼吸法でありながら、実際のヨガクラスでは、なかなかゆっくりと指導してもらえることが少ないかもしれません。
隣の人の大きな呼吸音に負けじと、音を無理に出そうと頑張ってしまい喉を痛め炎症が起きてしまったり、大きな摩擦音を意識するあまり余分な力が入ってしまい心地良い呼吸が出来なかったり、クラクラしてしまう…なんてことを経験された方も多いかもしれません。
古くから伝えられる伝統的な教えでは、ウジャイ呼吸は「自分にだけ聴こえ、隣の人には聴こえないくらいの音」と伝えられています。
しかし、現代では比較的大きな呼吸音を出すことが良いとされることもあるようです。
無理に呼吸音を大きく出そうとすると、身体に余計な力みが生じるため、本来の集中とリラックスを共存させるウジャイ呼吸とは大きくかけ離れてしまうため、始めから音を出そうとせず、ご自分の呼吸の音に耳を澄ますようにおこなってみてください。
練習の継続により、自然にウジャイ呼吸ができるようになっているはずです!
3. ウジャイ呼吸の効果
それでは、何故ヨガの練習で呼吸音を出す必要があるのでしょうか?
それは、見えない呼吸を意識しやすいように、また呼吸の質をより高めるためです。
さらに呼吸を意識的にコントロールすることで、気の流れである生命エネルギーをコントロールするためでもあります。(そのためプラーナヤーマは「調気法」とも訳されています。)
ご自分の呼吸音を聴きながらスムーズな呼吸に整えていくことで呼吸の質が高まります。また、ウジャイ呼吸が止まってしまうときは、ご自分の身体に無理にアーサナを強いていないか気づくことができます。
具体的なウジャイ呼吸の実践によって期待できる効果は、
2.肺の換気量の増大
3.内臓機能の活性化
4.基礎代謝の向上
5.体幹の強化
6.集中力の向上
7.思考や感情の働きが鎮まり安らぎを培う
8.心の安定を培う
などの効果が主にあげられます。
ご自分の呼吸に耳を傾けるように意識的に呼吸をすることで集中力が増し、思考が鎮まりやすくなり、アーサナのプラクティスが「動く瞑想」となるでしょう。
また「バンダ(骨盤底、腹部、喉の締め付け)」と言われる各部をロックするような力が養われるため、体幹を強化し、姿勢を正す力が養われ、腰痛予防などの効果も期待できるでしょう。
このバンダと言われる腹部などの引き上げにより、胸式呼吸の一種となり肺の換気量が増え、アーサナの質を高めたり、安全におこなうことにつながり、身体の安定感が増すことで心の安定にもつながります。
しかし、腹部を締め付けることから、食後すぐに行ったり、生理前、生理中や妊娠されている方は、強く引き締めるようなバンダはおすすめできませんのでご注意ください。
4.ウジャイ呼吸のおこない方、実践のための5つのポイント
それでは、多くの効果が期待できるウジャイ呼吸を早速試してみましょう!アーサナをおこないながらウジャイ呼吸を練習する前に、まずは座った姿勢で練習をすることがおすすめです。
1.安定した座り方を選び(安楽座やあぐら、椅子に座っても構いません)、背骨を下から順番に積み上げるように心地よい程度に背筋を伸ばします。
2.口から「はぁー」と息を吐き出してみましょう。
3.この感覚がつかめたら、今度は口から「はぁー」と息を吸い込んでみましょう。頭の後ろにガラスがあるとイメージして、そのガラスを曇らせるように、「はぁー」と口から息を吸ってみてください。息を吸い込むときも「喉を閉める」感覚をつかみましょう!
4.2と3の練習を繰り返し、喉を締める感覚がつかめたら、途中で口を閉じて鼻呼吸に切り替えてみましょう。顔の前と頭の後ろのガラスを曇らせるイメージをしながら、同じように喉を締めて呼吸をしてみましょう。
5.座った姿勢での練習から、アーサナとともに練習してみましょう。
例えば、流れるように動く太陽礼拝などのヴィンヤサを行う際に、吸う息の始まりで動き出し、吸う息の終わりでアーサナに到達し、吐く息の始まりで次のアーサナへと動き出し、吐く息の終わりでアーサナに到達するというように、息を見つめながら行ってみてください。
5. いつものヨガの練習にウジャイ呼吸を取り入れてみましょう!
私たちは命ある限り、この呼吸とともに在ります。その呼吸に立ち返ることは命に立ち返ることであり、ヨガはその命の源に立ち返る営みです。
呼吸をおろそかにし、ヨガのアーサナの完成度や表面的な美しさなどにこだわり過ぎたり、人と比べて競争のようにアーサナの出来不出来にこだわる練習の仕方や、必要以上に大きなウジャイ呼吸の音を出そうとする頑張りは怪我や喉の炎症などを招き、エゴを強め、ヨガ本来の目的からは大きくかけ離れていってしまいます。
呼吸はヨガの中心です。
アーサナの完成度や新しいアーサナを達成することに楽しみを見出していらっしゃることも素晴らしいことですが、そのアーサナを深めるためにも、ご自分の静かな呼吸の音に耳を傾け、意識的な気持ちの良い呼吸をバロメーターに練習を続けてみてください。
さざ波のようなご自分から発する呼吸の音に耳を澄ますとき、あなたの内には安らぎが育まれ、心身の安定と調和という大きな恩恵がもたらされることでしょう。