基本の呼吸法・完全呼吸とは?
ヨガのアーサナ(ポーズ)は、私たちの身体を浄化し、日常生活で習慣化された身体的、心理的な癖を明らかにしてくれます。
そして、プラーナヤーマ(呼吸法・調気法)はさらに繊細なエネルギーの流れを促し、心と身体の結びつきを強めてくれるヨガにおいて重要なツールです。
命の営みである呼吸は、自律神経のバランスや睡眠、脳の活動など私たちの心と身体の状態に影響を及ぼしており、この呼吸をコントロールすることで、私たちの心と身体を動かすプラーナ(生命エネルギー)の巡りを促し、調える方法がヨガにおいての呼吸法の捉え方です。
ヨガの基本的な呼吸法として用いられることが多い呼吸法は「腹式呼吸」や「ウジャイ呼吸」などが挙げられますが、それらと並びヨガのウォーミングアップとしてもおこなわれることが多い「ディルガ・プラーナヤーマ(完全呼吸)」は、よりプラーナを身体の隅々まで巡らせ、細胞を活性化させるような呼吸法です。
ディルガ・プラーナヤーマの「dīrgha(ディルガ)」とは、「長い」という意味になり、腹式呼吸、胸式呼吸、鎖骨式呼吸を組み合わせておこない、呼吸筋をフルに(完全に)使う、文字通り長く、深い呼吸法です。
完全呼吸の目的と効果
多くの人たちは、日常生活で呼吸を意識することがあまりありません。また、普段の姿勢が身体や呼吸、心の状態に影響を及ぼしているということも忘れがちです。
例えば、パソコンなどのデスクワークなどによる猫背姿勢によって、肺が圧迫され浅い呼吸になることで、交感神経が優位になり、イライラしてしまったり、肩回りの筋肉が硬くなり肩こりや頭痛を引き起こすこともあります。
反対に心の状態が姿勢や身体の状態、呼吸に影響を与えており、例えば心配事や悩みを抱えているときには、身体は前かがみになり浅い呼吸になってしまいます。
ヨガはこうした心と身体、呼吸のつながりに着目し、アーサナによって正しい姿勢を身に付け、姿勢の安定性を培い、胸を心地良く開いた姿勢によって深い呼吸をおこなえるようにすることで、心身のバランスを整えることができます。
意識的にヨガをおこなっている方のなかにも実は浅い呼吸になっている方々も多く、より呼吸筋を柔軟に保ち、肺の許容量を高めるためにも完全呼吸をおこなうことがおすすめです。
この完全呼吸には、
② 酸素を取り込む量が多いため、細胞の活性化につながる
③ 血行促進効果
④ 基礎代謝の向上
⑤ 脳の活動の活性化
⑥ 自律神経のバランスを整える
⑦ リラックス効果
⑧ マインドの安定を培う
⑨ 質の良い睡眠に促される
⑩ 疲労回復
などの効果が期待できます。
ヨガは姿勢を変え、呼吸と生命エネルギーの流れを変え、心の状態にも影響を与えることができるツールですが、ヨガの意識的な呼吸法を身に付けることで、心にも明るさや明晰さなどの変化が訪れ、負の感情を払拭することにつながります。
また、完全呼吸によって肺のキャパシティが広がり、より心と身体のスペースが広がるような感覚を持つ方も多いことと思います。
この完全呼吸法を練習することによって、日常生活だけでなく、ヨガプラクティスにおける呼吸もスムーズにおこないやすくなり、深い呼吸を身に付けることができます。
完全呼吸のメカニズム
肺は肋骨に囲まれた胸郭のなかにあり、自ら収縮や弛緩をおこなうことができないため、周りに覆うようにある呼吸筋群によって呼吸活動がおこなわれています。
そのため、呼吸筋群を柔らかくしておけば、それだけ深い呼吸ができ、取り込む酸素の量も多くなります。
完全呼吸は、
お腹が膨らむ「腹式呼吸」、
胸部が広がる「胸式呼吸」、
鎖骨周辺や肩まわりまで広がる「鎖骨式呼吸」
の三段階の呼吸法をおこなうことで、呼吸筋群を最大限に使い、肺の機能を高めます。
完全呼吸法のメカニズム
腹式呼吸は、吐く息によって横隔膜が弛緩し、吸う息によって横隔膜が下がり、お腹が膨らみます。
胸式呼吸は、吐く息によって内肋間筋が収縮し、横隔膜が弛緩、吸う息によって外肋間筋と横隔膜が収縮し、胸部が広がります。
鎖骨式呼吸は、吸う息によって外肋間筋や横隔膜が収縮し、胸鎖乳突筋や僧帽筋なども使いながら肋骨の上部を上向きにし肺の上部にまで酸素を送り、これら3つの呼吸法を連動させることで呼吸筋群を総動員して酸素を取り込みやすくし、肺の許容量を広げます。
完全呼吸の練習方法
ヨガの基本的な呼吸法は鼻から吸って、鼻から吐き出す「鼻呼吸」です。また、食後は避け空腹時におこなってください。吸う息がどこに入るかを意識し、心地良いペースで無理せずにおこないましょう。
①:安楽座や蓮華座など無理なく安定し、背筋が心地良く伸びる姿勢で座ります。肩を少し後ろに引き、胸を広げましょう。(骨盤が傾き、背骨が丸まってしまう方は、座骨の下に坐布やクッション、ブランケットを敷き骨盤が立ちやすくなるようにしましょう。)
②:お腹に手を当て、息をしっかりと吐き出しましょう。目をやさしく閉じ、吸う息をお腹に届けるように深く吸います。吐く息はお腹がへこむように、細く長く吐き出します。
お腹が膨らんだり、へこんだりする動きを手の感覚で感じましょう。この腹式呼吸を数回練習してみましょう。
③:②の腹式呼吸の感覚がつかめ、呼吸が落ち着いてきたら、今度は胸式呼吸の練習に進みましょう。手を肋骨に当て、手を当てている部分が膨らむように、鼻から吸って、肋骨がしぼんでいくように吐き出しましょう。
お腹は膨らまないように、胸が左右上下、前後に広がるようなイメージでおこなってみてください。この胸式呼吸を数回練習してみましょう。
④:次に鎖骨式呼吸を練習しましょう。手を鎖骨のあたりに置き、お腹を膨らませずに、胸の上部や鎖骨の辺りに吸う息を届けるようにします。吐く息で肩まわりをリラックスさせ引き下げましょう。
鎖骨のくぼみや鎖骨の裏まで吸う息を送るようにイメージしておこなってみてください。この鎖骨式呼吸を数回練習してみましょう。
⑤:②腹式呼吸、③胸式呼吸、④鎖骨式呼吸、それぞれの呼吸法を練習したら、完全呼吸法の練習へと移りましょう。片手をお腹に置き、もう片方の手を肋骨に置いて、リラックスしながら息を吐き出しましょう。
吸気の3分の1程の空気をお腹に届けるように吸いお腹が膨らんだら、次の3分の1程の空気を胸・肋骨のあたりに届けるように吸い、最後の3分の1程の空気を胸の上部や鎖骨のあたりに届けるように吸います。
鼻からゆっくりと吐き出し、腹部や胸部、肩まわりを緩めながら吐き切りましょう。下から順番に空気を積み重ねるように吸って、同じ時間をかけて吐き切ります。
この完全呼吸が無理なく心地良くできるように、呼吸の流れと身体の感覚に意識を向け、繰り返し練習してみてください。
アーサナはもちろんのこと、呼吸法も上手にしようとすると、無意識的な緊張により、かえってスムーズにおこなえないことが多くあります。上手にしようと頑張らずに「心地良くできること」を大切に練習をしてみてください。
日常生活やヨガプラクティスで浅い呼吸や無意識的な呼吸を気づかないまま続けていることで、その習慣が凝り固まり、身体や心の在り方にも悪影響が出始めます。
ヨガは無意識的な在り方から、意識的な目醒めた在り方・生き方を目指しています。
意識的な深い呼吸を身に付けることで、体調が安定したり、マインドの鎮まりや心の安定とともに、ヨガ本来の目的である瞑想へ、そして本来の自己・真我の追求へとつながっていきます。
この完全呼吸法の練習によって、あなたがよりヨガの深い恩恵を得ることができますよう願っています。