「不可能への挑戦」とか「不可能を可能にする」という言葉には、かっこいい響きがありますよね。でも、それを現実に実行するとなると、めちゃくちゃ大変です。自らの限界や困難に挑戦し、それを乗り越えるためには、強い信念や想像を絶するほどの努力が必要になるからです。
だからこそ「不可能への挑戦」なんて、そもそも映画や小説・アニメの世界でしかありえないことと、はなからあきらめていませんか?
でも実際に、絶対に無理と言われたことに果敢に挑戦し、ついに奇蹟を成し遂げたことで、一躍時の人となった女性がいます。『ビリギャル』こと小林さやかさんです。
今回はさやかさんをお招きし、不可能に思われることを成し遂げるために必要なこととは何かを、じっくりと伺いました。
皆さんがより健康でハッピーになれる、そんなヒントをお届けします。
小林さやかさんプロフィール
『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(坪田信貴・著)の主人公であるビリギャル本人。
慶應大卒業後はウェディングプランナーとして従事した後、ビリギャル本人として500回以上の講演や記事執筆など、幅広い分野で活動しながら、教育科学の研究のため聖心女子大学大学院に進学、修士課程を修了。
2022年秋には「子どもの能力を信じて引き出すことができる教育者の育成」を研究 テーマに、米国コロンビア教育大学院にて認知科学を学んでいる。
著書「ビリギャルが、またビリになった日、勉強が大嫌いだった私が、34歳で米国名門大学院に行くまで」(講談社)。
横幕 真理のプロフィール
インドでのヨガの修行により人生が変わる体験をしたことをキッカケに、インド・オーストラリア・バリ島の3ヶ国でヨガ留学を経験してRYT500を取得。
その後、今度は自分が「誰かの人生を変えるキッカケになりたい」そんな想いで2018年、株式会社MAJOLIを設立。ヨガ・ピラティスの資格取得をメインとするキャリアアップスクールを経営し3,000名以上の卒業生を輩出。
スクール事業、メディア事業、コミュニティ事業、すべてのプロダクトの開発から運営までのプロデュースを手掛ける。
2021年、著書「New Me-わたしだけの新しい人生の見つけかた-」を出版。
真理
今回は120万部のミリオンセラーとなった『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』の主人公として知られるビリギャルこと小林さやかさんをお招きし、「ビリからのキャリアの築き方」についてお話を伺います。ビリギャルは有村架純さんの主演で映画にもなっていますので、多くの方がご存じのことと思います。ではまず初めに自己紹介をお願い致します。
さやかさん
ご紹介いただいたとおり、今は「ビリギャル」というお話の主人公として活動させていただいております。現在はニューヨークに住みながら、コロンビア教育大学院にて認知科学の分野を研究しています。
真理
私は今日、さやかさんからお話を伺えることを、すごく楽しみにしていました。というのも私は大学生のときに就職活動につまずいてしまい、ニートになるしかなくて、ビリということをすごく味わう20代を経験したんです。ですからさやかさんと似た経験をした1人として、とても親近感を覚えています。そこでお聞きしたいのですが『ビリギャル』が有名になったことで、さやかさんの人生は大きく変わりましたか?
さやかさん
実はビリギャルといわれるようになって今年で10周年なんですよね。私はもともとウェディングプランナーの仕事をしていました。それで、ウェディングプランナーが超楽しいなと思ってやっていたら、本が突然出て、あっという間にベストセラーになったんです。そしたら取材の問い合わせが押し寄せてきて、私からしたらかなり前の話なのに「今、何が起きているんだろう?」といった感じで戸惑いました。講演にも呼ばれるようになりました。子供たちに話をしてほしいと言われたら断れないじゃないですか(笑)。
さやかさん
なので、最初は本当にお仕事というよりはボランティアで子供たちに話をして回っていたんです。そしたら「ビリギャルのおかげで人生が変わった!」と言ってくれる子供たちがたくさんいて、「そうなんだ、私は人の人生にこうやって関わる仕事ができるんだ。」と思い、教育にすごく興味をもつようになったんです。やはり私自身も教育によって人生を変えてもらった経験があるので、なおさらですね。
コロンビア大学で認知科学を学んでいる理由とは?
真理
コロンビア大学に進まれたのも教育に関心があったからですか?
さやかさん
はい、学年でビリだった私がなぜ短期間で難関大学に合格できたのだろうかと改めて考えるようになり、その答えを得るために認知科学を学ぼうと思ったからです。
真理
なぜ認知科学を?
さやかさん
多くの人と話してみて私が驚いたことは、ほとんどの人が地頭がもともと良かったのだろうとか、才能があったからだとか、そういうことにばかり興味をもっていることでした。「興味があるのはそこなんだ!」と思い、ショックを受けました。私は大切なのはプロセスであり、どのように勉強したのかだと思っていたのに、そこにはあまり関心がないようでした。でも私は才能よりも環境要因の方がはるかに重要だと思ってます。
さやかさん
そこで、より多くの子供たちの可能性を広げるためにも、地頭うんぬんといった議論をしているのではなく、頑張るためにはどういった環境が必要なのかを理解する方が合理的だと思ったんです。それで、認知がどういったものに影響を受けて、どう形作られていくのかといった認知科学を現在研究しています。
絶対無理と思えることに挑戦できる原動力とは?
真理
「認知科学」と聞くとなにやら難しそうに思えてしまいますが、絶対に無理と思えることに挑戦し続けられる原動力みたいなものは、何かあるのでしょうか?
さやかさん
最近とったポジティブサイコロジーという授業のなかに、ヒントがかなりあります。ポジティブサイコロジーでは、人には2つの種類の幸せがあると教えています。ひとつがヘドニックで、ポジティブな感情や喜びを感じていて、苦痛や不快感がない状態をさします。これだけでも十分幸せな気もしますが、実はダメなんです。もうひとつのユーダイモニックが備わっていないと、本当の幸せは得られません。
さやかさん
ユーダイモニックとは、自分の潜在能力や強みを生かして何かを成し遂げるという自己実現や自己成長のことです。この2つが両方ないと、人は幸せにはなれないんですね。そしてユーダイモニックに突き動かされるからこそ、不可能と思えることにも挑戦できるのだと思います。
真理
なんとなくイメージできます。
さやかさん
たとえば私は7年間、がむしゃらに頑張ってウェディングプランナーの仕事をやっていたけれども、同じゾーンにずっといることで成長していないという感覚がすごく気持ち悪かったんです。これはユーダイモニックが欠けていたからで、私自身を満たすために定期的になにかにチャレンジしたくなるんだなと、最近すごく理解できました。
小さな成功体験を積み重ねていくと…
真理
さやかさんは日々、いろんなことに挑戦していらっしゃると思いますが、思い切ったことができる秘訣ってなんでしょうか?
さやかさん
「なんでそんなにチャレンジできるんですか?」とよく聞かれるけれど、私も生まれつきそうだったわけではなくて、その分野での過去の成功体験があって、少しずつハードルを上げていった結果なんです。
さやかさん
これまでずっと守りに入っていて、絶対に傷つきたくないし、絶対に失敗したくない人が、英語ができないのにいきなりコロンビア大学には来られないと思うんですよ。これまで私はそれなりに恥をかきまくりながら、失敗しながら挑戦をしては小さな成功体験を自分の中で築き上げてきたからこそ、留学にも挑戦できたのだと思います。
真理
小さな成功体験を積み重ねることで、自信をもてるようになるのでしょうか?
さやかさん
そうですね、挑戦するということは、本当にすごく怖いことだと思います。ですから初めの一歩を踏み出すためには、小さなことから少しずつ自信を積み上げていくことが重要です。大切なのは自分との約束を守るという感覚ですね。
さやかさん
たとえば明日、絶対に朝7時に起きるぞと思ったならば、朝7時に起きてください。それによって、自分は自分に課した約束をきちんと守れるんだ、決めたことはきちんとやれるんだと念押しできます。それは自分に信頼を作っていく行為であり、自分を信じる力になります。そうやって自分でゴールを決めて、それを達成していく経験を積み上げていくことで、絶対に無理と思えることにも自信をもって挑戦できるようになります。
真理
私はビビりなので、挑戦する前は怖いなと思ってしまいます。さやかさんでも怖いと思うんですか?
さやかさん
私もいまだに全然怖いですよ。ただ経験というのは本当にすごくて、私は年々、最強になっちゃっているのではないかと思います(笑)こんなの高校生のときであれば耐えられないと思うけど、今は割と平気だなという感じです。怖さを打ち消すためにはマインドセットが、とても有効です。ちなみにグリットって聞いたことありますか?
IQよりも大切なのはマインドセット
真理
グリット!?
さやかさん
数年前にすごくバズった言葉なんですよ。グリットというのは、長期のゴールに向かって継続的に情熱と努力をもつという、忍耐力のようなものなんですね。それで、グリットがなぜこんなにバズったのかといえば、グリットがIQよりも学業の成績を予測したという研究が出たからなんですよ。
さやかさん
それまでは才能やIQが全てだと思われていたんです。IQの高い人、もともと才能のある人が学業とか、そういった専門的な領域で成功を収めていると、多くの人が信じていたわけです。ところがペンシルベニア大学の教授が、テストの成績はIQよりもグリットの方が相関関係が強いとする研究結果を発表したんです。
真理
才能やIQよりもグリットの方が重要ってことですか?
さやかさん
そうなんです。長期的に自分の情熱と努力を継続できる忍耐力こそが、IQを超える成功を予測する因子だとわかったわけです。それが世界を震わせたというか、「まじで?」となったわけです。それで、このグリットをどのように育てていくのかが、現在も研究対象になっています。
さやかさん
それにはいろいろな方法があるんですが、まずマインドセットです。能力というのは生まれつきのものではなく、自分の努力やトレーニングによって、どんどん育てることができると信じることが大切で、これを成長マインドセットと呼びます。
真理
その成長マインドセットを育てるには、どうすればよいのでしょうか?
さやかさん
すごく面白いのが、その答えは周りの人がくれるフィードバックなんです。フィードバックには2種類あります。「あなたは本当に賢いわね」って、その人が出した成果とその人の能力を帰属させて褒める方法と、「あなたの頑張りがちゃんと結果につながったんだね」と、成果とその人の努力やプロセスを帰属させて褒める方法です。
真理
どう違うんですか?
さやかさん
1つ目は「もともとのあなたの能力が高いのよ」と暗示していることになりますので、成長マインドセットに逆行していることになります。成功する人はもともとの能力が高かっただけで、努力をしても無駄ですよというメッセージになってしまうんです。
さやかさん
しかし2つ目の方法、つまり成し遂げたプロセスをきちんと褒め称える方法であれば、成長マインドセットが育ちます。だから親御さんが子供に与える影響というのは、本当にすさまじいものがあります。卒業後は、このことを伝える活動をしたいなと思っています。
真理
素晴らしいですね!成長マインドセットは大人でも育つものですか?
さやかさん
育ちます。まずは、マインドセットを変えることが大切なんです。使う言葉を変えてみたり、習慣を変えることは、大人でもできます。
真理
とても参考になります。
自分を褒め称えることで成績は伸びる
真理
読者からのメッセージが届いていますので、紹介しますね。「もうすぐ大学入試が始まります。応援メッセージをください!」とのことです。
さやかさん
テストで重要なのは「認知」です。自分はできるぞと思えばパフォーマンスは上がるし、やばい、準備が足りなかった、自分はどうしてもっと勉強しておかなかったんだろう、とかネガティブなことに光を当てると、本当にパフォーマンスが下がることがわかっています。重要なことは、自分を褒め称えることです。もう絶対に大丈夫。これまできちんとやってきたんだから、全力を出し切れば絶対に良い点数を取れるぞと自分に言い聞かせ、心を落ち着かせて、いつもどおりの実力を発揮できる状態を自分の中につくることが大事ですね。
真理
それも認知科学なんですね?
さやかさん
認知科学というのは、要は日本語でいう「再評価」のことなんですね。たとえばテストの直前に手が震えてきたとします。このとき、手の震えを「緊張していてやばい、準備がまだできていないんだ」とネガティブに捉えると、運動能力も認知能力も全て下がることが科学的にわかっています。だけど、この手の震えは武者震いだとポジティブに捉えれば、逆にパフォーマンスは上がるんです。
真理
つまり手が震えたという事実そのものに変わりはないけれども、その事実をどう評価するかで、実際にテストの成績は変わってくるということでしょうか?
さやかさん
そうそう。なので、自分の状態を自分がどう評価するのかが、すごく大事なんです。やばい、ネガティブなほうに振れているなと感じたならば、もう無理やりにでもポジティブな側面に光を当てて、物事や人など何でも再評価をしたほうがいいんです。これを「リフレーミング」と言います。アメリカではセラピーがすごく人気ですが、セラピーでもリフレーミングをずっとやっているんです。ですので、自分でリフレーミングをすることは、試験を乗り越えるためにはすごく良い戦略だと思います。
真理
ヨガでも体と心はつながっていると考えます。心でネガティブなことを感じ取れば、体もどんどんネガティブになっていくと……。ヨガの教えも心理学の面からきちんと科学的に裏付けされているのだと、今、聴きながら思いました。あと私はママさんと関わることが結構多いのですが、自分をすごく責めてしまったり、苦しんでいる方がたくさんいらっしゃいます。そうしたママさんたちにも、自分を褒めることをぜひおすすめしたいと思います。
さやかさん
それはすごく重要です。具体的に言うと、毎日寝る前にパソコンでも良いし手書きのノートでも良いので、1日の自分の行動を振り返って、この出来事は私のこの強みが関わっているのではないか、というのを見つけてください。自分の強みを認識して、それを生かすことに焦点を当てて生活できるだけで、かなり幸福度が上がることがわかっています。ぜひやってみてほしいです。
真理
はい、私もやってみます。
不登校の方に向けたメッセージ
真理
読者の方からのメッセージをもうひとつ紹介しますね。「私は今、不登校です。でも今年、同い年の子よりも遅れて高校受験をします。高校できちんとやっていけるのか、挑戦できるのかが不安で仕方ありません。アドバイスをお願いします」とのことです。
さやかさん
何かに挑戦することは、怖いことなんです。それはみんな一緒です。でも、それを乗り越えた先に何かあると知っているから頑張れるんです。だから少しグッと踏ん張って、その先にある光を見つけてほしいなと思います。不登校は別に普通のことだからね、本当に。周りが騒ぐからものすごく大変なことのように思えるかもしれないけれど、不登校と同じようなことは大人だってしているからね。
さやかさん
たとえば会社に入るよね、そしたら嫌な上司とかがいて、会社を休んでそのまま転職する人だってだっているんです。大人の方が選択肢が多いだけのことです。あなたたちは選択肢をあまり与えてもらえないから、不登校になってしまうだけで、別にあなたが悪いわけじゃないんですよ。不登校と言われると、自分がすごく駄目なように思うかもしれないけれど、その学校とあなたの相性があまり良くなかっただけのことです。学校って誰でもほんとにささいなことで行きたくないって思うよね。なので、偶然割り当てられたその学校に行けるほうが奇跡なんです。
真理
たしかに、そうですよね。
さやかさん
楽しみながら学校に行けること自体が奇跡なのだから、不登校になったことで自分を責めたり、恥ずかしいと思う必要なんてまったくないんだよって真っ先に伝えたいです。
終わりなき挑戦!
真理
ありがとうございました。最後にウェルネスストーリーの読者や今後どう生きれば良いのか悩んでいるかに向けて、ぜひ応援のメッセージをください。
さやかさん
本日は皆さん、ありがとうございました。挑戦することは何歳になっても怖いけれども、怖いから挑戦なわけで、怖くないものは挑戦でもなんでもないと思います。私は何歳になっても、挑戦し続けていたいなと思います。
さやかさん
私の話をもう少し聴きたいなと思った方は、最近、『
ビリギャルが、またビリになった日』という本を出版しましたので、ぜひ読んでみてくださいね。この本には、なぜ私がコロンビアに行ったのかとか、ビリギャルストーリーのビハインドストーリーのようなものも書いてあります。私がこれまでの活動で感じてきたことも書いてありますので、興味のある方は読んでみてください。
真理
本日は素敵なお話をありがとうございました。