0から分かるヨガ哲学【八支則⑥】シャウチャ―わたしをやさしく、清らかに整える

ヨガの哲学　八支則とは？

ヨガを学んでいると「八支則（はっしそく）」という言葉をよく耳にすることはありませんか？

これはヨガの最終的な目標である「悟り」へと向かうための8つのステップのことを指しています。

八支則の教えは、聖者パタンジャリによって編纂された『ヨーガ・スートラ』に記されており、そこには、現代を生きる私たちにとって大切な「自分らしく、より善く生きるための知恵」がたくさん詰まっています。

八支則の土台　ヤマ・ニヤマとは？

そんなヨガの基本の教えである八支則のうち、第一段階と第二段階にあたるのが「ヤマ・ニヤマ」です。

そのなかでヤマとは、「日常生活で行うべきではないこと」という5つの教えであり、ニヤマとは、ヤマとは逆の「日常生活ですすんで実践すべきこと」という5つの教えで、計10個の教えから成り立っています。

実は、ヤマ・ニヤマとは本来、アーサナ（ポーズ）を取ったり、呼吸法や瞑想を行ったりする前に得ておくべき、シンプルでとても大切な心得のこと。

私はこの教えに出会ってはじめて「ヨガはただ、ポーズをとるだけのものじゃないんだ。」と心から腑に落ちたような気がしました。

まずは自分の日々の思考や発する言葉、行動、食事、人との関わり…そして何よりも、“自分との関係性”を整えるために、常に自分を見つめなおすこと。

ヤマ・ニヤマはまさに、私たちの“日常”でこそ活きる本質的な教えであり、「自分らしい人生」を歩んでいくための、しなやかな指針なのではないでしょうか。

今回は、ニヤマの最初の教えである「シャウチャ」について私なりの視点で考えをシェアしていくので、ぜひあなたらしい感性で、この教えを受け取ってみてくださいね。

シャウチャ（清浄）とは？

私にとってシャウチャとは、「“わたし”という存在そのものを、やさしく整えるということ」。

前回の記事では、ヤマの最後の教え、「アパリグラハ」を私なりの感性でお伝えしました。

ヨーガ・スートラの第2章40節にはこんな言葉があります。

「浄化によって、自分自身の身体への嫌悪感や、他人の身体に触れることへの嫌悪感が生ずる。」と。

ぱっと読むと難しそうに思えるこの一節を、私はこう捉えてみました。

「“きれいにする”ということは、“汚い”という状態に気づけるからこそできること。そしてシャウチャを実践することで、私たちはすでに持っていた本来の純粋さや清らかさにはじめて気づけるのではないか？」

「シャウチャ」とはサンスクリット語で「清らかさ」「純粋さ」「浄化」を意味します。

ですが、それは単に“自分の外側の世界をきれいにする”ということだけではなく、思考や感情、心の在り方といった“自分の内側の世界”を整えていくことも大切だと私は感じています。

心がざわついていたり、空間が物や情報で溢れていたり。無理や我慢を重ねて、自分の感情にぎゅっと蓋をしてしまうと、私たちは本来の自分をふと見失ってしまいそうになりますよね。

だからこそ私は、
「シャウチャ」とは“わたしという存在そのもの”を整え、自分自身のもつ本来の純粋さや穏やかさを取り戻していくための、やさしい行いとプロセスのことなのではないかな？と考えました。

などが挙げられますが、次の章からは、私自身が感じる「シャウチャあるある」を3つ、ご紹介していきます。

日常でのシャウチャあるある

頭の中が、常に「やらなきゃいけないTodoリスト」で埋め尽くされてしまう

「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ、あぁもう何から手をつけたらいいんだろう…。」

私たちは日々仕事や家事、育児、介護、自分のことだけではなく、誰かのことも考えて時間に追われてしまうことが多く、気づけば「やるべきこと」で頭も心もいっぱいになってしまうことはありませんか？

現代を生きる私たちはつい「マルチタスクをこなせること」や「効率よく生きること」に価値を置いてしまいがちです。

けれど、シャウチャの教えは私たちに問いかけてくれます。

「あなたのその忙しさは、本当に今、必要なものなの？」と。

頭や心の中が「やるべきこと」でぎゅうぎゅうに詰まっていると、自分の大切な「心の余白」を失ってしまいます。

ときには“あえて、しないことを選ぶ勇気を持つこと”もまた、内側の静けさを守るシャウチャの実践にもつながるのではないでしょうか。

心がざわついているときほど、身の回りもなぜか散らかってしまう

忙しくて家のことに手が回らないときや、スマホの通知が鳴りやまないとき…気づけば部屋も、心もざわざわして、なんとなく落ち着かない。そんなことはありませんか？

実はそんなときこそ、シャウチャの教えは静かに私たちにメッセージを伝えてくれているのです。

「私たちの身の回りの状態は、心の状態をそのまま映している」と。

自分が落ち着ける整った空間にいると、自然と呼吸も深まり、心も穏やかになっていきます。

お気に入りのお香を焚いたり、好きな音楽を聴いたり、心ときめく小さなお花を飾ってみたり…「自分が心地よいとただ感じるもの」を少しずつ空間に取り入れていく。

これもまた、シャウチャのやさしい実践のひとつにつながります。

感情を飲み込みすぎて、気づいたら疲弊してしまう

「私は大丈夫、平気だよ」と言いながら、本当はずっと我慢していた。
「全然気にしてないよ」と笑ってごまかしたけど、実はすごく傷ついていた。

そうやって、気づかぬうちに感情を飲み込み続けてしまうと、心の奥底にずんと重たいものが溜まっていってしまいませんか？

それは、まるで「心の掃除」をしないまま放っておいているような状態。

内面のシャウチャができていない状態とも言えるかもしれません。

だからこそ、ときには涙が枯れるまで泣いてみたり、信頼できる人に素直に話をしてみたり、ぐちゃぐちゃな自分の気持ちをそのまま紙に書き出してみたり、ただただ静かに「今」を感じるだけでもいいのです。

自分の内側にあるどんな感情にも、まずはやさしいまなざしを向けてあげること。
静かに寄り添う姿勢をもって、そのままの姿をまずは自分が見つめてあげること。

これもまた、自分の思考や心の清らかさを育む、大切なシャウチャの実践のひとつなのではないでしょうか。

シャウチャの教えを日常に活かす方法

私がよく行っている、シャウチャのための小さな習慣を3つご紹介します。

これらの習慣はどれも特別なことではなく、シンプルで、心をすーっと整えてくれるようなやさしいものたちばかり。

シャウチャは、完璧さを求めることだけではありません。

「今の自分を素直に感じ、やさしく見つめ、軽やかに整えてあげようとする姿勢」

ここから始まっていくのではないかなと私は心から思っています。

まとめ

いかがでしたでしょうか？
ヤマ・ニヤマの6つ目の教えであるシャウチャ。

シャウチャは、「完璧な状態で綺麗な状態を保ち続けること」ではなく、「“わたしそのもの”を大切にするための在り方」。

そのために、今の自分のありのままの状態に気づき、自分に合う心地よい形でやさしく整えてあげること。

心も身体も思考も感情も、身の回りのものや情報も、「今の自分に本当に必要なものだけを残すという選択をしてみる。」

そんなやさしいチャレンジを、少しずつこれから私と一緒に積み重ねていきましょう。

そしてなによりも、シャウチャを「自分自身を否定することなく、自分にやさしさを保ったまま整える」という意識をもつことが私は大切だと思います。

しんどいときは、部屋が散らかってしまっても、心が荒れてしまってもいいんです。大丈夫。

生きていれば、まずはそれだけでハナマル。

自分で自分にマルをつけることができないときは、誰かにSOSを出すことだって、自分の浄化につながります。

しっかり休んでチャージしてから、また自分を整えようと必要なタイミングできっと思えるようになるはず。

誰よりもまずは、自分自身にやさしく。

そして、自分を丁寧に扱うそのまなざしが、やがてまわりの人や世界へのやさしさへと、自然に広がっていくと、私は心から信じています。

今日も、あなたがあなた自身を、まっすぐに愛せる日でありますように。